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2022年6月成立・改正刑法|侮辱罪の厳罰化・拘禁刑の創設などを解説
1 刑法の改正
2022年6月13日に改正刑法が成立し、同年7月7日よりその一部が施行されています。
刑法は明治時代の制定以来、2017年までは抜本的な改正が全くなされていませんでした。
しかし、近年では社会の実情に合わせて、積極的に刑法改正が行われている状況です。
今後もさらなる刑法改正が予定されており、その動向が注目されます。
今回は、2022年6月に成立した改正刑法のポイントを解説します。
2 2022年6月成立・改正刑法のポイントと施行日
⑴ 侮辱罪の厳罰化
インターネット上での誹謗中傷が大きな社会問題となっていることを背景として、侮辱罪の法定刑が引き上げられました。
侮辱罪の厳罰化に関する改正は、2022年7月7日からすでに施行されています。
⑵ 拘禁刑の創設
従来の懲役刑と禁錮刑が廃止され、これらに代えて「拘禁刑」が創設されます。
拘禁刑は、2025年6月1日に施行されます。
⑶ 刑の執行猶予制度の拡充
過去に全部執行猶予付き判決が確定した者でも、2年以下の拘禁刑を言い渡される場合には再度の全部執行猶予が認められるなど(従来は1年以下の懲役・禁錮の場合のみ)、刑の執行猶予制度が拡充されます。
刑の執行猶予制度の拡充に関する改正は、2025年6月1日に施行されます。
⑷ その他
刑法とあわせて「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」「更生保護法」「更生保護事業法」も改正され、受刑者の処遇や社会復帰支援に関する規定、被害者の心情などを考慮するための規定などが変更・新設されます。
3 改正刑法のポイント①|侮辱罪の厳罰化
2022年7月7日より、侮辱罪の法定刑を引き上げる改正刑法が施行されました。
侮辱罪は、事実を摘示せずに他人を侮辱する(社会的評価を下げるような言動をする)行為について成立する犯罪です。
インターネット上での誹謗中傷が大きな社会問題となる状況において、悪質な誹謗中傷に対する抑止を働かせるため、侮辱罪の厳罰化が行われました。
<改正前の法定刑>
拘留または科料
<改正後の法定刑>
1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
なお、上記の厳罰化に伴い、侮辱罪の公訴時効期間も1年から3年に延長されています(刑事訴訟法250条2項6号)。
4 改正刑法のポイント②|拘禁刑の創設
⑴ 拘禁刑創設の背景
2022年6月成立の改正刑法において、最大のポイントといえるのが「拘禁刑」の創設です。
拘禁刑は、従来の懲役刑と禁錮刑を統合した刑罰と位置付けられています。
拘禁刑が創設されることになったのは、以下の理由によります。
・懲役刑に比べて禁錮刑の受刑者がきわめて少数であること
・刑務作業を課されない禁錮刑の受刑者も、その多くが自主的に刑務作業を希望するため、懲役刑との実質的な差がほとんどなくなっていること
・刑務作業に大半の時間がとられてしまい、矯正処遇に充てる時間を十分に確保できていないこと
上記の事情を踏まえて、懲役・禁錮という刑罰の種類で画一的に区別するのではなく、個々の受刑者の事情に応じた更生プログラムを施すべきとの考え方から、拘禁刑への一本化が行われることになりました。
⑵ 拘禁刑と懲役刑・禁錮刑の違い
拘禁刑の受刑者は、従来の懲役刑の受刑者とは異なり、一律で刑務作業の義務を負うわけではありません。
その一方で拘禁刑の受刑者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができるとされています(改正刑法12条3項)。
つまり、犯罪の内容や受刑者の生活態度などに応じて、刑務作業を命ずることもできるし、それ以外の必要な指導を行うこともできるということです。
禁錮刑の受刑者に対しては、従来は刑務作業を命じることができませんでした。
これに対して、改正刑法の施行後は拘禁刑が科されることになりますので、従来であれば禁錮刑が科された受刑者に対しても、必要な作業(刑務作業など)を命じたり、必要な指導を行ったりすることができるようになります。
⑶ 拘禁刑の受刑者に対して行われる「必要な指導」
改正刑法において、拘禁刑の受刑者に対して行うことができる「必要な指導」とは、受刑者の改善更正を図るための更生プログラムを念頭に置いたものです。
具体的には、以下のような更生プログラムの実施が想定されています。
・高齢受刑者向けのリハビリプログラム
・薬物依存の受刑者向けの矯正プログラム など
5 まとめ
近年の刑法改正においては、社会的に大きく問題視される行為(誹謗中傷・性犯罪など)につき、主に以下のことを念頭に置いた変更が行われています。
・刑法の規定を明確に適用して処罰すること
・より重い刑罰を科すことを可能とすること
今後も引き続き、社会の実情に合わせた刑法改正が積極的に行われることが予想されますので、改正の動向が注目されます。